一人と一人(4)


 日曜日のおやつどき。ラジオからは果物にまつわる曲というテーマのナンバー。


 スケジュールは船 → バス → 明朝6時半京都駅着。 一時間半ほど車を走らせ港に着くと、『海上で推進器にゴミが巻きついたため出港が一時間遅れます』という聞いたことのないアナウンス。半端な時期だが待合室にはそれなりに旅行客がいた。疲れたお父さんが畳で寝ていた。


 しばらくして乗船。台風が近づいていたこともあり、船は多少揺れそうだった。酔い止めを取り出し飲む。出港30分前に飲んでおくべきものなのだが、いつも忘れてしまう。案の定5分で三半規管がおかしくなってきたのでどうにか寝てやりすごそうと試みる・・・。










―夏はどうだろ…春か秋がいいよ
―写真好きなら


 時間が解決してくれる以外の立ち直り方を知らなかった。気を紛らわせて時間を稼いでいるうちに、なんかいいことあって立ち直ってくれないかなと思っていた。


 そう都合よくいくわけがない。高校までなら半月や一月程度休んでも卒業できるが、彼女は大学生だった。それも結論を急いでいた理由の一つだったように思う。


 リプライ → DM → 通話と順当に馴れ馴れしくして、その次はもう会いに行くか。そこまでせんなんか? 流石にめんどくさい気がした。この島からはどこへ行くにもとにかく遠いし、どこの誰とも知れない人と仲良くなってもなぁ。引っ越し前だしあんまりお金も使いたくない・・・。


 しかし他に何も思いつかなかった。私は彼女に元気になってほしかった。誰かが死にそうになっていて、その人に死んでほしくない時、いくらでも止めようがある。目の前にいさえすれば。物理的に。


 何か食べに行かない? 月曜日に会いに行くこと、それまでは首吊りはしないこと。二つ約束した。









7月2日

 直江津港着。最寄りの駅まで歩き、さらに一駅隣へ。時計は19時、バスまでは4時間半ほど。

 薬局で飲み物を調達し、夕飯を考える。地図上にはイタリアンとラーメン。農村ではお目にかかれないオムライスを食べたいが、旅先で若干心細い気もしたので親しみやすそうなお店を選んだ。


 昔ながらの落ち着いた店内。テレビからは都知事選のニュースが流れていた。常連らしいサラリーマン風の男性がビール片手になにやら熱く語っていた。京風白味噌ラーメン。おいしい。京の都の風を感じる。餃子も食べる。おいしい。割引券を貰って帰りも寄ろうかな? お店を出る。


 台風の影響かものすごく湿度が高かった。時間を潰せそうな所がなかったので高速道路上のバス停に直行し、ベンチに座って襟元をバタバタバタバタやりながら2時間待った。23時40分乗車。バス乗った寝る。おやすみ・・・。









7月3日

 月曜朝9時、京都駅八条口。


 ロータリーを歩き、駅構内に入るとクッソ曇った山ん中で草刈り機ぶん回していた昨日までとは人口密度が8兆倍くらい違った。異国のYOUとたくさんすれ違って驚いた。人の波の波という波に当てられ、待ち合わせ場所の西口時計台に着く頃にはもう疲れた感じになっていた。


 ともあれ、今日は楽しい日。天候も上々。DMに寄せられた情報を元に辺りを見回す。お店の角を背に彼女はいた。こんにちわっ(背後にワープ)









 ・・・長い黒髪に薄手の花柄の服・ぴったりめのジーンズ。痩せているせいか実際の背丈より更に一回り小さく、抱える白い鞄が大きく見えた。有名人で例えるならもこっちかな。怒られるか。



 おはよう。


 おはよう…。


 聞き覚えのある声を聞くとだんだん嬉しくなってきた。よく来たね。よく来たのは私の方である。今日はよろしくね。挨拶もそこそこに、最初の目的地の水族館に向けて歩きだした。









 水族館はまだ開いてないと言われた。どっか入って待とう。振り向くと、すぐ後ろにポータルカフェなるお店。日々ポータルを奪い合う我々にぴったりだ。完璧なスケジュール。


 窓際の席からは東へ伸びる線路が見えた。オレンジジュースにするらしい。子どもかな? 私も同じものを頼んだ。柑橘類は大事。

 飲みつつ、おみやげを渡す。地元のめっっっっっっっちゃ硬いかりんとうと、どうぶつのシルエットのマグネット。4つくらい買って他の人にも渡したことがあるのは内緒。


 ゲームの話をした。うおーデッキつええ・・・ジャックオー凸るまで回そうかなぁ・・・最初に思ったけど、S9(ランク)には全然見えないね=よわそう。


 楽しい。









 駅を抜け、ビル街を歩き歩道橋を渡り、路地に入る。日差しが強かった。台風はどこへ行ったのだろう。手を繋いで歩いた。もうすっかり親しみが湧いていて気兼ねしなかった。


 京都で落ち合うはいいが、さてどこへ行けばいいのか・・・寺か寺しか思いつかず困っていると、彼女が見つけてくれたのが水族館だった。ペンギンもいるよ。よし行こう!

 ツイッターのアイコンがずっとペンギンなせいか、一年に一度くらいは水族館に来ることがあった。まあたいしてペンギンに思い入れはないんだけど。









 水族館には15分ほどで着いた。こんな都心? でお魚が見られるとは。館内は平日にも関わらず家族連れで賑わっていた。まだ夏休みじゃないぞ。学校や会社はどうした。どうしたんだっけ・・・。


 順路通りに各々感想を言って回った。でかいタコだ・・・スベスベマンジュウガニだ・・・ペンギンだ・・・。いっぱいいるなと思った。ペンギン村の裏に回ると、小部屋でアザラシが思いっきり羽を伸ばしまくっていた。こんなにくつろいだいきものを見たことは今までなかった。


 イルカショーを見にステージへ。正午過ぎ、外は相変わらず晴れ晴れと、プールはキラキラとしていた。座って待っていると、お姉さんにストローを切ったような笛を貰った。プーという名前らしい。ピーだったかもしれない。

 合図をしたら鳴らしてね!とのことだったが、説明を聞いてもまったく鳴らせなかった。二人ともいつまーでもスースースースーやっていた。プーはピーできなかったけど、元気に飛び跳ねるイルカたちを見ていると気持ちも弾んだ。


 館内のカフェへ。ドリンクについてくる水のいきもののマドラーが欲しいらしいので二つ頼んだ。彼女は青いイルカ、私はピンクのペンギン。思ったよりかなりピンクで私もイルカにすればよかったと思った。でもなぁ、ペンギンのほうが好きだしなぁ・・・。









 昼食をとった後、午前中通りかかった大きな水槽へ。天井の高い吹き抜けの薄暗いフロア、水槽にはたっぷりと光が差し込んでいた。とても綺麗だった。魚たちがぐるぐるといつまでも回遊していた。私たちは壁際の椅子に並んで腰かけ、それを眺めた。いつまでもそうしていた。




 その5に続く