あれは忘れもしない高3の大晦日。
日付が変わったころだった。私と妹は実家に帰るべくいそいそと仕度をしていた。
すると外からなにか物音が聞こえた。
窓を開けて、すぐ下を覗き込むと目があった。
薄暗いじめじめした所でニャーニャーニャーニャー鳴いていた。
ペットの飼えないアパート。
その住宅地で犬や猫を見かけたことはなかった。
野良猫だろうか?
私は窓を閉めた。
それから30分くらい鳴いていた。
その年最後の雪が静かに降っていた。
もしかしたら飼い猫かもしれない。
でもそんなのはどうでもよかった。
こいつは今日からうちの猫だからだ。
友達の通ってる学校で見かけた全然関係ない猫
うちのと違って目つきが悪いのが特徴
尻尾がかぎになっているところも似ている
つやつや
ひよこ
天地無用
高校の文化祭で売れ残って買わされた素敵なうちわ
白黒つけようぜ
拾った時何歳だったのか?
誕生日はいつなのか?
その猫は実家ですくすくと育っていった。
ぷくぷくと太っていった。
日陰でぽっこりお腹を隠すことに成功
いつも一緒にいたわけではなかった。
でもたまに帰省すると、えらいことにちゃんと覚えてくれていて
2階の部屋まで階段を走ってきて布団に乗っかってきて寝ていた。
重いよ。
近所に友だちがいるようで、四季昼夜を問わず遊びに出ていた。
家の前でキリッとおすわりして誰かを待っている姿をよく見かけた。
夜中ニャーという鳴き声を聞いて私は階段を降り、玄関を開けに行くのが常だった。
たまに器用に引き戸を自力で開けていたが、開けるだけで閉めないので寒いとばーちゃんは文句を言っていた。
野良猫がたくさんいる海岸へ連れて行った。
やたらビビって威嚇しまくっていた。
いつかの夏、耳がたれてきたので病院に連れて行った。
両方のほっぺをへこませ口を開けさせ、舌の上に薬を落として、鼻に水を塗る。
猫は鼻が濡れるとぺろっと舐めてつばを飲む。すると薬も一緒に飲む。
薬はやはり苦そうで、またひっつかまえて無理やり飲ませようとするほかないのでまあひっかかれた。
でもきれいに治ってよかった。
ばーちゃんが『おはよう』と声をかけると『おはよう』と返していた。
本当におはようと言っていて、これYouTubeにあげたらめっちゃ流行りそうだな・・・と思った。
しかし忘れたのかそのうち言わなくなってしまった。
ごめん寝が流行っていた頃
∧_∧
評判の毛布を買ってきた
そんなやつだったが、10月の中頃に病気で亡くなった。
ばーちゃん曰く、どうも様子がおかしいと病院に連れて行ったらもう手遅れで、その翌日亡くなったとのことだった。
お盆あっつい中だっこして、親戚と集合写真を撮ったのが最後だった。
本当はシルバーウィークに帰省するはずだったのに、おっくうで帰らなかった。
もし帰っていたらなにか気づけたかもしれない。
もしくは、あの日拾っていなかったら
どっかもっといいところでもっと長生きしていたかもしれない。
引き出しを開けるたび コップを洗うたび
いちいち君を思い出してる
こんな僕をどこかで君は想像してるかな
それとも全てを忘れるのかな
ペットとはなんなのか?
気まぐれな人間に振り回されて死ぬだけの生き物なのか?
連れてきてよかったのか?
でもいつかのあの雪の夜、他の誰でもない私を呼んでいたのだと思いたい。
エサねーぞってねだってくれればいい。
寒いから早よ開けーやって外から呼んでくれればいい。
そしたら私はいつものように階段を降りて玄関を開けに行くだろう。
また遊んでくれよな