一人と一人(10)

2018年2月3日

夏が終わった時、次の冬は越せないなと思った。寂しさにとても耐えられそうになかった。夜、寒さに目が覚めても、霰が車の天井をやかましく打ち付けても、辺り一面が真っ白になっていてさえ、冬が来たという実感が涌かない。あの日から時間が壊れてしまった。朝が来て、夜が来るだけ。何の予定も区切りもない。いつまでも明日が来ない。来る必要性がない。


重い男だの重い女だのいう言い回しがある。実際重い。ずっと重りがついている。昔、家に帰るのが嫌でいつも最終のバスで帰った。現実を忘れたくて布団の中から出られなくなった。家で安心できないならどこで安心すればいい? あの頃からずっと不安という覆いが常に被さっている。生きることを保障されていない。調子のいい時はその重さを感じないが、ふと弱気になると急に鎌首をもたげてくる。

誰かに頼りたかった。後ろ盾が欲しかった。もたれかかりたかった。後ろに隠れたかった。そんな誰かは地球上のどこにもいない。ずっと逃げ回ってきた。今でもそうだ。いくら思い返してみても、いつか遊んだゲームのキャラ以上に心の底から信頼できる生身の人間が思いつかない。


楽しみがなければ生きていけない。私は楽しい人間になろうと思った。そう振る舞っていたつもりだった。今書いてるようなことは表に出さないように生きていこうと思っていた。楽しいと思うことばかりして、それ以外しなかった。できなかった。


いつか贈り物をしてくれた人の夢をみた。他に好きな人がいたから、意識して嫌われようとした。その人はいなくなった。私は人を不幸にしたことをすごく後悔した。それを今の今まで忘れていた。どうして忘れていたんだろう。

大切なことはすぐに忘れてしまう。好きだったものだっていくらでもある。それを共有することもできた。彼女にもあったはずだ。まだまだいくらでも話せることはあった。


今まで色んな人と話した。たくさん笑った。本当に楽しかった。ずっと一人でいると、自分が何なのか本当に分からなくなる。この楽しい記憶は現実にあったことなのだろうか? もう分からない。再現できないからだ。する気もない。もう誰にも関わりたくない。不幸にしたくない。されたくもない。私の周りには私を不幸にする人間しか残っていない。誰も一人きりで生きていくことはできないが、はなから他人と関わって生きていけるように作られていない。








頼れる誰かをずっと待っていた。
その誰かになりたかった。

私は一人でどこでも行った。
一人でいるのは寂しかった。
誰かといるときは本当に楽しかった。